故人を最後の旅立ちに送り出す際、その身も心も清らかにする伝統的な儀式、「湯灌（ゆかん）」についてご存知でしょうか？
「湯灌」とは、故人の体を水や温かい湯で優しく洗い清め、次の世界へ旅立つ準備を整える、日本の葬儀文化に根ざした習慣です。
この行為は、ただの身体の清浄化を超え、故人への最後の敬意と愛情の表現であり、遺族にとっては心の平和をもたらす重要なプロセスとされています。
しかし、多くの人々が湯灌の本質、その実施にあたってのデメリットや具体的な服装、納棺との関連、立ち会う人のマナーや費用、そしてなぜ湯灌が必要なのかといったことについて疑問を感じるでしょう。
この記事では、これらの疑問に対して明確に答え、湯灌の意義を深く理解し、故人を尊重し、適切に送り出すための準備ができるように解説していきます。
湯灌（ゆかん）の儀とは？
湯灌（ゆかん）は、故人がこの世を旅立つ前に施される儀式で、故人の体を水や温かい湯で洗い清め、来世への準備を整えます。
かつては遺族や近親者がこの責務を果たしてきましたが、精神的な負担と実施の難しさから、現代では専門の葬儀社や湯灌業者によって行われることがほとんどです。
湯灌の目的
湯灌の目的は多岐にわたります。
一つは、故人を清潔にして安らかに次の世界へ送り出すこと。
また、湯灌は遺体の衛生状態を保ち、死後硬直を和らげる効果があるとされ、納棺作業を容易にします。
しかし、湯灌が必ずしも必要な儀式とされているわけではなく、簡易的な清拭（せいしき）だけで済ますこともあります。
現代では、故人の身体をバスタブやシャワーで丁寧に洗う「湯灌」の儀と、アルコール綿などを使用して拭き清める「古式湯灌」の2つの形式がありますが、後者は一般に「清拭」と呼ばれます。
このうち、湯船やシャワーを使用する形式が一般的に「湯灌」として認識されています。
この儀式は、現在では専門のスタッフが担い、遺族はその過程に立ち会う形で参加することが一般的となりました。
湯灌と死化粧の違い
死化粧は、故人の顔に化粧を施し、故人が生前好んでいた服に着替えさせることに焦点を当てた儀式です。
これは、故人を生前の姿に近づけ、遺族にとっての見送りが心の平和につながるようにとの願いから行われます。
死化粧では、入浴やシャワーは必須ではなく、主に清拭によって体を清めることが多いです。
この二つの儀式の大きな違いは、湯灌が故人の身体を洗い清める行為に重点を置くのに対し、死化粧は故人の外見を整えることに焦点を当てている点です。
湯灌は、清潔という物理的な準備の側面を扱い、死化粧は、故人を尊重し、故人の好みや人格を反映させることにより、精神的な準備を整えることに重きを置いています。
湯灌が行われた後に死化粧を施すことは一般的ですが、必ずしも湯灌が先行するわけではありません。
また、専門性の高い納棺師がこれらの儀式を担う現代では、湯灌を専門とする「湯灌納棺師」と、主に死化粧に特化した納棺師とがいます。
【関連記事】
湯灌とエンバーミングの違い
エンバーミングは、ご遺体の腐敗を防ぎ、衛生的に長期間保存するための科学的な処置です。
この技法では、特殊な防腐剤や殺菌剤を含む溶液を遺体の血管に注入し、腐敗防止や殺菌消毒を行います。
エンバーミングは、特に長期間の保存や展示、または遠隔地への運送が必要な場合に行われることが多く、専門のエンバーマーによって専門の施設で施術されます。
湯灌とエンバーミングの主な違いは、目的と手段にあります。
湯灌は、故人への最後の尊敬と愛情を表す精神的な儀式であり、現世の穢れを落とし、故人を清めることに焦点を当てています。
一方で、エンバーミングは腐敗を防ぎ、長期間の保存を可能にする物理的な目的で行われる科学的な処置です。
湯灌（ゆかん）の手順と流れ
湯灌の手順と流れは、故人を精神的にも物理的にも清め、尊厳を持って次の世界へ送り出すための重要な儀式です。
このプロセスは、故人への最終的な敬意の表現であり、遺族にとっても心の準備となります。
以下に、一般的な湯灌の手順を解説します。
一般的な湯灌から納棺までの流れ
準備とプライバシーの確保
湯灌の開始前に、専門業者は浴槽やその他必要な設備を準備します。
適切なプライバシーを確保するために、屏風や目隠しを設置し、立ち会うのは遺族や親しい人だけに限定されます。
この時点で、弔問客のための焼香スペースの設定も考慮されることがあります。
故人の洗浄
故人の髪と体は、湯灌業者によって丁寧に洗浄されます。
この過程では、故人の尊厳を守るため、直接的な裸体の露出は避けられ、タオルやバスタオルで適切に覆われます。
遺族は、故人の顔や手を優しく拭くことで、この儀式に参加することもあります。
タオルはぬるま湯につけてから絞りますが、お湯は、洗面器に水を入れてから熱湯を注いでぬるま湯を作る「逆さ水」とします。
熱いお湯を水で埋める通常の流れとは逆の動作をすることで、平時ではないことを示しています。
故人の着替え
洗浄が終わると、故人は白装束や遺族が選んだ衣装に着替えます。
この過程は、故人が次の世界へ旅立つための準備として、また遺族にとっては故人との最後の身体的な交流となります。
故人の顔の手入れ
男性故人の場合はひげを整え、女性故人の場合はメイクを施します。
この際、故人が生前好んでいた化粧様式を尊重することが重要です。遺族の意向に応じて、化粧の濃淡や色合いが調整されます。
納棺
故人は遺族や近親者の手によって棺に納められます。
この時、故人があの世に持っていくべきと思われる品々が棺に添えられることがあります。火葬に適さない物品は適切に処理する必要があります。
後始末と遺品の処理
納棺が終わり、遺族が故人との最後の別れを終えた後、使用された設備や布団などは適切に処理されます。遺品は供養の後、処分されることが一般的です。
湯灌（ゆかん）に立ち会う場合の服装やマナー
湯灌に立ち会う場合のマナーは、故人への最後の敬意を表す重要な儀式の一環として、遺族や親族にとって心の準備を整える時間でもあります。
以下に、立ち会いの際の服装とマナーに関して解説します。
湯灌立ち会いに関するマナー（誰が立ち会うのか？）
湯灌は故人と最も近い関係にある遺族や親族が立ち会うことが一般的です。
故人にとって意味のある人々のみがこの儀式に参加するべきで、親族以外の立ち会いは遺族の同意が必要です。
小さな子どもや赤ちゃん、妊婦の立ち会いについては、心理的な影響を考慮し、適切に判断する必要があります。
儀式中の入退室は可能ですが、湯灌を行っているスタッフの作業を妨げないように留意しましょう。
湯灌立ち会い時の服装に関するマナー
平服の定義：
湯灌には平服での立ち会いが適していますが、平服とは日常着という意味ではなく、略礼装を意味します。
カジュアルな服装は避け、紺やグレーなど落ち着いた色のスーツやワンピースを選びましょう。
適切なアクセサリー：
過度なアクセサリーは避け、控えめな装飾で故人への敬意を表します。
パールのネックレスや布製の小物は受け入れられますが、革製品や金属製の光沢のあるアクセサリーは避けましょう。
喪服の選択：
お通夜や葬儀に間に合わせるための喪服への着替えが可能であれば、平服で立ち会うことが望ましいですが、遠方からの参加や時間の制約がある場合は、喪服での立ち会いも受け入れられます。
この時間は、故人を偲び、遺族が心の準備を整える貴重な瞬間です。
湯灌に立ち会う際は、故人との最後の時間を尊重し、遺族の意向を第一に考慮した行動を心掛けましょう。
湯灌（ゆかん）の価格・費用相場
湯灌（ゆかん）は、故人を清め、次の世界へ送り出すための伝統的な儀式ですが、この儀式には費用が伴います。
湯灌にかかる費用は、サービスの内容や提供する葬儀社によって異なりますが、一般的な相場としては50,000円から150,000円程度とされています。
ここでは、湯灌の価格・費用相場についてわかりやすく解説します。
湯灌の価格・費用相場
基本的な湯灌費用：
湯灌を行う際の基本的な費用は、おおよそ50,000円から100,000円の範囲内です。
この費用には、故人の体を洗浄するための材料費や専門スタッフの人件費が含まれています。
オプション料金：
古式湯灌、すなわち清拭の場合、一部の葬儀社では基本プラン内で提供していることもあります。
しかし、シャワーや特別な浴槽を使用する場合は、追加のオプション料金が発生することが一般的です。
費用に影響する要因
設備の使用：
移動式バスタブや特別な設備を使用する場合、追加料金がかかることがあります。
使用する設備によって費用が変動するため、具体的な金額を知りたい場合は葬儀社に直接問い合わせることが重要です。
葬儀社の選択：
すべての葬儀社が湯灌に対応しているわけではないため、湯灌を希望する場合は事前に対応可能な葬儀社を選ぶ必要があります。
対応している葬儀社も限られているため、選択肢が狭まることがデメリットとして挙げられます。
湯灌のメリット・デメリット
メリット：
湯灌の最大のメリットは、故人を心を込めて清め、尊厳ある形で送り出すことができる点です。
また、故人との最後の触れ合いを通じて、遺族が心の準備を整える機会となります。
デメリット：
湯灌を行うことの最大のデメリットは、追加費用がかかることです。
葬儀の総費用を高くする要因となり得ます。
湯灌の価格や費用は、故人への最後の敬意を表すための重要な要素ですが、葬儀全体の予算とのバランスを考慮して決定することが重要です。
葬儀社によって提供されるサービスの内容や価格が異なるため、事前に複数の葬儀社から見積もりを取得し、比較検討することが望ましいでしょう。
湯灌（ゆかん）に関するよくあるご質問
Q.湯灌の儀に宗派は関係ありますか？
A.
湯灌の儀は、特定の宗教や宗派に特化したものではなく、日本の葬儀文化の中で広く受け入れられている儀式です。
その本質は、故人を清め、尊厳を持って次の世界へ送り出すことにあり、宗教的な要素を超えた人間としての最後の礼儀とされています。
現代では、多くの人が病院や介護施設などで亡くなるため、看護師や医療スタッフによって最初の清拭（せいしき）が施されることが一般的です。
この清拭は、衛生的な目的で行われ、故人の体を拭き清めることにより、見た目を整えるとともに、遺体の衛生状態を保つ役割を果たします。
しかし、湯灌はこの医療的な処置とは異なり、故人への敬愛の気持ちを形にするためのより深い精神的な意義を持つ儀式です。
それは、遺族が故人との最後の別れを形式美ある形で行うことを可能にし、故人への感謝と尊敬の気持ちを込めて行われます。
そのため、湯灌はどの宗教や宗派に属しているかに関わらず、故人と遺族の意向を尊重する形で実施されます。
もし遺族が特定の宗教的な要素を湯灌の儀に取り入れたい場合は、その宗教の教えに基づいた方法で行うことも可能です。
重要なのは、故人を敬い、遺族の心の準備を助けることが湯灌の儀の目的であるということです。
アルファクラブ武蔵野株式会社
葬祭部 さがみ典礼 執行役員
大学卒業後、アルファクラブ武蔵野（株）葬祭部さがみ典礼に就職してから約20年を葬儀場の現場でお客様の悲しみに寄り添ってきました。
現在は、さがみ典礼の責任者として、現場スタッフとともに残されたご家族のみなさまがより安心して葬儀を進めていただけるお手伝いできることを心掛けています。
2004年3月 東邦大学理学部卒業
2004年4月 アルファクラブ武蔵野（株）葬祭部 入社
2020年1月 アルファクラブ武蔵野（株）葬祭部 川口支社 支社長
2021年5月 アルファクラブ武蔵野（株）葬祭部 副本部長
2022年5月 アルファクラブ武蔵野（株）葬祭部 本部長
2023年9月 (有)中央福祉葬祭 取締役（アルファクラブ武蔵野（株）葬祭部 本部長兼務）
2024年5月 アルファクラブ武蔵野（株）葬祭部 執行役員
